ゴールデン・ウィーク2日目。きょうは昨日よりちょっと気温が低い。朝起きてベランダを覗くと、猫のK吉がいきなりクシャンとひとつクシャミをした(猫がクシャミをするなんて、ボクは彼と暮らし始めてからはじめて知ったのだ。それに、猫にまつげがあることもね。彼のことはいつかちゃんと書くことにするよ)。
それにしても、きのうは暑かった。ボクは暑いのはいくら暑くてもかまわない。夏は暑くなければ夏ではないのだ。南国の生まれかと問われれば、出身は山陰、むかしでいう裏日本の産だと答える。ずいぶん前に「(出身は)沖縄ですか?」といわれたコトがあるな。
ところで、夏といえば今から20年以上前(それにしても、ボクのブログのネタはむかしのコトが多いなあ)、社会人になりたての頃しばらくは、夏が近づくと、ボクの頭の中にはトム・ロビンソンン・バンドの〝ロング・ホット・サマー〟が鳴り響くのだった。彼らの1st.アルバム〝パワー・イン・ザ・ダークネス(1978)〟収録のその曲は、メンバーのオルガニスト、ドルフィン・テイラーの疾走感あふれるオルガンが最高にカッコいい曲なのだ。(ついでに、特筆すべきロックのオルガニストのことをアーカイヴしておくか。レイ・マンザレク/ザ・ドアーズ。ジョン・ロード/ディープ・パープル。マシュー・フィッシャー/プロコル・ハルム)
何かが起こるかもしれない、胸騒ぎの夏の予感でワクワクしていた。
人生を変える運命の出会いがボクを待っているかも知れない。
それよりも何よりも、日本の文学を終わらせてしまうようなすごい小説が、その夏ボクによって書き上げられるのではないか。気が狂いそうなほどの妄想で(実際ボクは、日本の文学を自分の手で終わらせる小説のことを構想していた1985年の1月、精神的崩壊をお越しそうになり、あやうくその一歩手前でこちら側に引き返した経験がある。あれから20th。今年はアニバーサリー・イヤーか)ボクは夏の到来を切望していた。
それにしてもあの頃は、自分をごまかすように仕事をしていたな。
夢とか希望なんてものはこれっぽっちもなかった。お金もオンナにも縁がなかった。そのくせ自分は世界の中心で日本の文学を終わらせるほどの能力と運命を背負った人間ではないかと思い込んでいたのだ。仕事は、自分をだましだまし生きていくために、食べるためのしかたない手段といった感じだった。
もともと、好きな本とレコードが自分のお金でかえればいいや、と思ってしかたなく始めた社会人生活だったのだ。〝自分のお金〟といえば、サラリーマン生活でもらったお金は、長い間少しも「自分で稼いだ」という気がしなかったものだ。自分をだましながら1ヶ月を何とかやり過ごすと、給料日にお金は「自動的に」振り込まれてくるのだった。
夏が来る。しかしその前に、ドルフィン・テイラーのオルガンにスピードに自分の意識の速度を合わせながら、ボクの夏は妄想の中で白光し、季節はピークを迎えていた。
そしてカレンダー上の夏が来る。いつも何も起こらなかった。運命の出会いも、日本の文学を終わらせる自分の小説の出現も。ボクの夏は、いつも妄想の中でとっくに終わっていたのだった。